時速400kmに挑むJR東「次世代新幹線」の全貌

科技
#1 大変だよね
10/05/19 03:50

昨年12月に先頭の1号車、今年2月に最後尾の10号車と、JR東日本が小出しに公開してきた新幹線の試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」の全容が5月9日、報道陣に公開された。

【写真】「アルファエックス」の先頭車は2タイプ。鋭角な鼻先の1号車

アルファエックスは10両編成。川崎重工業と日立製作所が分担して製造し、この日までに宮城県利府町の同社新幹線車両基地に運び込まれた。

■シャープな鼻と長い鼻

新幹線が高速でトンネルに突入する際、トンネル内に圧縮波が形成され、反対側の出口からパルス状の圧力波を放射する。この圧力波を抑えるために、先頭形状をなめらかにする必要がある。ほかにも、高速走行に伴う騒音や振動をいかに抑えるか。速度性能を高める新型新幹線を開発するためには、こうした環境性能を同時に高める必要がある。

アルファエックスは時速400kmでの走行を予定しているだけに、環境性能を高めるための数々の工夫が施されている。その一つが先頭形状。通常の列車は先頭車両と最後尾車両の形状は同じだが、アルファエックスの両端、つまり1号車と10号車はそれぞれ形状が異なる。

1号車の「鼻」の長さは16mで、現在の東北新幹線の主力であるE5系(15m)よりも少し長い。E5系とほぼ同じ長さという条件で環境性能をどこまで向上できるかを試すためだ。E5系から丸みを削ぎ落としたような鋭角なデザインは、風の流れによって作られる「削ぎ」や「うねり」「広がり」といった要素を取り込んだ。

一方、10号車の鼻は約22m。1両が丸ごと鼻といっても差し支えないくらいだ。その形状は、台車部を覆うせり出した造形、運転士を包み込む造形、後方に向けてなめらかにつなぐ造形という3つの造形で構成されている。

試験走行では両タイプの圧力波抑制効果などを比較し、次世代新幹線の新たな先頭形状開発につなげる。

2~9号車は今回初めて公開された。3号車と7号車は通常の車両よりも窓が極端に小さい。また、5号車はミーティング室や多目的室が設けられ、扉部分を含めても窓がほとんどない。「窓の大きさや有無による車両構造や客室内環境などの評価を行うため」(JR東日本)という。実際、窓の大きさで騒音レベルはかなり違ってくる。JR東海の新幹線700系と最新のN700Aでは窓の大きさが全く違う。最高速度の速いN700Aの窓のほうが小さい。窓の面積が小さいと車体の軽量化や剛性強化にもつながる。

8号車は、外観は通常の車両と大きな違いはないが、車内を2つに分けて、客室環境を比較評価するという。

■急停車は屋根上の「抵抗板」で

性能面では、地震発生時などの緊急事態により早く、より安全に止まるために、車両の屋根上に空力抵抗板ユニットを設置した。普段は格納されているが、緊急時にせり上がる。2005~2009年に走行試験を行った8両編成の「FASTECH(ファステック)360」も空力抵抗板ユニットが設置されており、その特徴的な形状から「猫耳」と呼ばれたが、アルファエックスのそれはずっと小ぶりだ。

ほかにも山手線の新型車両などに搭載されているCBM(予防保全)システムを搭載して、車両や地上設備を常態監視することで異常発生前にメンテナンスを実施する。これによって故障が減ると同時にメンテナンスコストの低下にもつながる。また、将来の自動運転を目指すために、出発から加速、惰行、減速といった車両制御の基礎的な研究開発も行う。

アルファエックスは今月から2022年3月にかけて、仙台―新青森間を中心に走行試験を行う。次世代新幹線の営業最高速度とされる時速360kmでの走行のほか、最高時速400kmでの走行は数回程度行われる。走行試験は週2回程度、営業列車の走行しない夜間の時間帯に行われるが、運が良ければ、駅に停車中のアルファエックスの雄姿を見ることができるかもしれない。

大坂 直樹 :東洋経済 記者

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